デジタル給与払い解禁の流れと企業が意識すべき5つのポイントを解説
国内でも、デジタル給与払いの解禁が現実味を帯びてきました。デジタル給与払いとは、デジタルマネーで給与を直接入金することです。
企業がデジタル給与払いを導入すると、求人応募率のアップや従業員満足度の向上が期待できます。
本記事では、デジタル給与払いの議論がスタートした2015年以降の動きを振り返り、特に重要な出来事のみをピックアップしてまとめました。
あわせて、デジタル給与払い解禁に向けて企業が意識すべき5つのポイントやデジタル給与払いが注目されるようになった背景も解説しますので、ぜひ最後までご一読ください。
なお、デジタル給与払いの概要や企業が導入するメリットに関しては、以下の記事でも詳しく解説していますのでご参照ください!
※本記事の内容は、2022年5月時点での情報です
デジタル給与払い解禁に向けたこれまでの動き
デジタル給与払い解禁に向けたこれまでの動きは、以下のとおりです。
デジタル給与払いをめぐる議論は2015年にスタートし、政府は早期の解禁に向けて取り組んできました。
しかし、労働者側の理解を思うように得られなかったこともあり、実現に至っていないのが現状です。
ここでは、デジタル給与払いの議論がスタートしてから現在までの状況について振り返ってみたいと思います。
2015年:政府内での議論がスタート
政府内での議論がスタートしたのは、2015年のことです。
当初は、銀行口座の開設が難しい外国人労働者向けの支援策として、デジタル給与払いの導入を検討されたことがきっかけです。
2018年4月20日:給与デジタル払い議論本格化の発端
公的資料で確認できる最も古いデータは、2018年4月20日におこなわれた「国家戦略特区ワーキンググループ」での内容です。
議事要旨を確認すると、東京都が「ペイロール・カードへの賃金支払いを可能とするための労働基準法の特例の創設」を要望していることがわかります。
この場では、銀行口座を作りづらい外国人労働者の話題に触れるとともに「ペイロール・カードは日本人にとっても利便性が高いものである」と提案されています。
さらに、政府が「キャッシュレス化の推進」に向けて大きく舵を切っていたこともあり、給与デジタル払いの議論も本格化していきます。
しかし、2018年6月におこなわれた「未来投資戦略2018」では、実現に向けた具体的な期限は明記されず「導入可能性について検討をおこなう」という記載に留まっていました。
2019年6月21日:制度化実現の期限が明記
デジタル給与払い解禁に向けて制度化実現の期限が明記されたのは、2019年6月に公開された「成長戦略フォローアップ案」でのことです。
この資料のなかで、給与受け取り側にニーズがあることや、キャッシュレス社会の実現に向けた動きについて触れられており、「2019年度、できるだけ早期に制度化を図る」と記載されました。
あわせて、解禁に向けた前提条件として以下の内容が掲げられています。
なお、本資料では、デジタル給与払い解禁の背景として外国人労働者を想定するような記載はすでに見られなくなっていることがわかります。
2019年12月18日:給与の電子マネーでの支払いに関する制度改正の推進を確認
2019年12月18日に首相官邸でおこなわれた「国家戦略特区の諮問会議」のなかで、規制改革事項の13項目が決定しました。
そのなかのひとつに、『キャッシュレス社会に向けた携帯アプリなどへの賃金支払』が挙げられています。
具体的には「2020年の4月以降、できるだけ早い段階で賃金支払いを電子マネーでもできるように制度改正をおこなうこと」が確認されました。
2020年6月5日:資金決済法改正
2020年6月には資金決済法が改正され、資金移動業者の取扱上限金額が見直されます。
資金移動業者とは、いわゆる「〇〇Pay」などを提供する業者のことで、給与デジタル払いの中心となる存在です。
資金決済法改正以前、銀行等以外の者が為替取引する際の金額は100万円以下に限定されていました。
それが2020年6月の法改正以降、資金移動業者も100万円を超える高額送金ができるようになっています。
本改正は、給与デジタル払い解禁に向けて大きな布石となりました。
2020年11月30日全銀協が不正出金対策としてガイドラインを提示
2020年11月には、一般社団法人全国銀行協会が不正出金対策として「資金移動業者等との口座連携に関するガイドライン」を公表しました。
ガイドライン策定の背景には、銀行口座と連携した決済サービスを提供する資金移動業者等を通じて、銀行口座から不正出金がおこなわれる事象が複数発生していたことがあります。
全銀協は本ガイドラインのなかで、資金移動業者と連携して認証を強化することや、不正検知としてのモニタリングの高度化を図ることなどの方針を明らかにしました。
2021年4月5日:2021年度のできる限り早期に実現する方針を発表
2020年度内の給与デジタル払い解禁には至らず、2021年度を迎えます。
2021年4月5日には「第12回 投資等ワーキング・グループ」が開かれ、政府は改めて「2021年度できる限り早期の制度化を目指す方針」を明らかにしました。
また、2020年度中には「労働政策審議会労働条件分科会における議論」が計4回実施され、給与デジタル払い解禁に関する課題が整理されています。
2021年4月19日におこなわれた「 労働政策審議会労働条件分科会」では、2020年度の分科会で協議された内容をもとに『資金移動業者の口座への賃金支払について課題の整理③』が公表されました。
本資料のなかでは、セキュリティ不備による不正引き出しなどへの対応や、資金移動業者が破綻した場合の仕組みづくりなどについての課題を指摘する意見が挙げられています。
2021年6月18日:2021年度内の制度化実現について閣議決定
菅政権時代の2021年6月に閣議決定した「成長戦略フォローアップ」のなかでは以下の文言が記載され、改めて2021年度内に制度化実現させる方針が発表されました。
しかし、2021年度もデジタル給与払いの解禁には至りませんでした。
2022年4月19日:デジタル担当相が解禁への意欲を改めて示す
2022年度に入っても、デジタル給与払い解禁をめぐる積極派と慎重派の議論は続いています。
2022年4月19日には規制改革推進会議の「スタートアップ・イノベーションワーキング・グループ」が開催され、資金移動業者の口座への賃金支払について議論がおこなわれました。
会合のあとには牧島デジタル担当相が挨拶し、以下のように述べています。
アメリカやヨーロッパの国々では、すでにペイロールカードが解禁されており、日本でも早期の実現に向けた動きが注目されています。
デジタル給与払い解禁に関連のある背景3つ
ここで改めて、デジタル給与払いの解禁に関連のある背景3つをおさらいします。
新型コロナウイルス感染症の拡大以降、私たちの生活は大きく様変わりしましたが、その影響は消費者の決済手段にも及んでいます。
それでは、詳しく見ていきましょう。
【背景1】キャッシュレス化の推進
経済産業省から発表されたデータによると、日本でのキャッシュレス決済比率は過去10年で倍増し、2020年には約30%となっています。
ただ、世界各国でのキャッシュレス決済比率は40〜60%となっており、キャッシュレス先進国の韓国にいたっては2018年時点で94.7%を達成しました。
日本でのキャッシュレス利用比率は高くなっているものの、欧米に比べると遅れをとっているのが現状です。
政府は、2025年までにキャッシュレス決済比率を引き上げ、4割程度とすることを目指しています。
そのようななか、デジタル給与払いは「キャッシュレス化推進のための一環」として捉えられています。
【背景2】外国人労働者への利便性向上
厚生労働省のデータを見ると、外国人労働者は年々増加傾向にあることがわかります。
ただ、外国人労働者は言葉による壁や審査基準が厳しいことも影響し、銀行口座を開設しづらい問題を抱えているのも事実です。
給与の支払い方法として銀行口座への振込を採用している企業のなかには、銀行口座を開設できない外国人労働者の雇用を躊躇らうケースもみられます。
一方で、資金移動サービスは、資金移動業者の支店が外国人コミュニティの近くにあったり母国語に対応していたりと、口座を開設しやすい点がメリットです。
そのため、給与デジタル払いの解禁は、外国人労働者の利便性を向上させるうえでも効果的です。
【背景3】新たな生活様式への対応
新型コロナウイルスの流行はデジタル化を加速させ、デジタル活用による消費行動の変化はあらゆるシーンで見られるようになりました。
総務省が発表したアンケートでは、1回目の緊急事態宣言下(2020年4月~5月)で消費者が利用したサービスのうち「電子マネー・電子決済・QRコード決済」は44.0%を占め、全体で2番目に多かったことがわかっています。
また、新型コロナウイルス感染症拡大の収束後に利用したいサービスでも「電子マネー・電子決済・QRコード決済」は全体で2番目に多い結果となりました。
新たな生活様式への対応が求められるなか、デジタル給与払いが導入されれば人同士の接触を減らせるため、感染予防も期待できます。
デジタル給与払い解禁に向けて企業が意識すべき5つのポイント
デジタル給与払い解禁に向けて企業が意識すべきポイントは、以下の5つです。
いずれも現時点で準備・検討できるものばかりですので、解禁後に乗り遅れることがないようぜひ参考にしてください。
【ポイント1】就業規則を改正する
給与デジタル払いを導入する企業は、就業規則の改訂が必要になります。
具体的には、賃金の支払い方法に「給与デジタル払い」と追記しなくてはなりません。
厚生労働省では就業規則作成支援ツールを提供したり、就業環境整備改善支援セミナーを開催したりしているので、これらを上手く活用するのも効果的です。
【ポイント2】同意書の用意が必要となる可能性がある
給与デジタル払いを導入する際は、従業員への同意書の用意が必要となる可能性があります。
2022年3月におこなわれた『労働政策審議会労働条件分科会』でも、資金移動業者の口座への賃金支払いについては、労働者から同意を得ることが前提であると確認されました。
なお、所得税法231条のなかでは「給与明細の電子化」にも同意書が必要と定めてあります。
【ポイント3】複数の給与受け取り方法を提示する
デジタル給与払い解禁後、企業が給与の受け取り方法を「資金移動業者の口座への賃金支払い」だけに制限するのは望ましくありません。
内閣府のホームページで公開されている「資金移動業者の口座への賃金支払について」のなかでも、以下のとおり記載があります。
デジタル給与払い解禁後も、「資金移動業者の口座への賃金支払い」以外の給与受け取り方法を希望する従業員は予想されます。
そのため、企業は複数の給与受け取り方法を提示できるよう準備しておくことが大切です。
【ポイント4】給与システムが変わる可能性がある
デジタル給与払いを導入するとなると、既存の給与システムでは対応できない可能性があります。
特にクラウド型の給与システムでない場合、デジタル給与払いの制度に対応できず新たな給与システムが必要になることも考えられます。
不安な方は、解禁後にベンダーがどのような対応を検討しているのか、事前に確認しておくとよいでしょう。
【ポイント5】情報漏れがない形で従業員情報を収集する
デジタル給与払い解禁に関わる従業員情報の厳格な取り扱いについて、過去の「労働政策審議会労働条件分科会」のなかでも幾度となく課題に挙げられてきました。
例えば、企業がデジタル給与払いを導入する際は、デジタルマネーの個人キー情報(個人情報にあたるもの)が必要です。
デジタル給与払いの導入を検討している企業は、現行の体制で漏れなく従業員情報を収集できるのか、今のうちから確認しておくことをおすすめします。
なお、当サイトでは「デジタル給与払いの解禁に向けて企業がやるべきこと」をまとめた資料を無料配布していますので、以下のバナーをクリックのうえお気軽にダウンロードしてください!
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デジタル給与払い解禁に向けて必要な仕組みを整えよう
今回は、デジタル給与払い解禁に向けた過去の動きや、企業が意識すべきポイントについて解説しました。
ここで、これまでにお伝えした内容をまとめます。
企業がデジタル払いを導入すれば、デジタルネイティブ世代や外国人労働者など幅広い人材を採用しやすくなります。
また、送金の手軽さから日払いや週払いに対応しやすくなることや、感染予防対策を期待できることなどもデジタル払い導入のメリットです。
デジタル払い解禁後にすぐ対応できるよう、今のうちから必要な仕組みを整えておきましょう。